ゆったりとしたリビングに子どもが走り回れる庭、足を伸ばしてリラックスできるお風呂…。せっかく家を建てるなら今よりも広い家に住みたいと思う方が多いことと思います。とはいえ、いざ家づくりを真剣に考えると、予算や土地を理由に建物の条件が20坪代になってしまうケースも珍しくないのが現実です。そう聞くと家づくりへの夢がしぼんでしまうように感じるかもしれませんが、実は建物の広さに制約がある状況でも注文住宅ならではの質の高い暮らしができる家を建てることは十分に実現可能です。
広い家が良いと思われている背景
20坪代の家は本当に狭くて不便なのでしょうか?「4人家族・4LDK・35坪」といった住宅を標準的な住まいとして大手ハウスメーカーなどでは推奨しています。こうした考えが生まれた背景には太平洋戦争後の住宅不足があり、同じ規格のものを大量供給するいわゆる工業化住宅の需要が高まったことが考えられます。憧れのマイホームの象徴的な存在として、1階は一体となったLDKを中心に、2階には寝室とそれぞれの子ども部屋をと、憧れのマイホーム像を手っ取り早く見せてくれるものでもありました。でも、そうした工業化住宅には住む人がそこでどんな暮らしをしたいかよりも、住む箱に合わせて暮らし方を考えるような側面があるのも事実。「4人家族・4LDK・35坪」の家で本質的な行動エリアを見つめ直してみると、広すぎると思える箇所も見えてくるのです。
LDKは本当に必要ですか?
実はスペースを有効に使えていないと思える部分の代表例がLDKです。「家を建てるならLDKは広い方がいい!」と思う方もいるかもしれませんが、ダイニングテーブルで食事をし、リビングに移ってゆったりくつろぐ時間を日ごろから十分に取れているという家庭がどれだけあるのでしょうか?共働きが当たり前になり、日々の家事や子育てに追われる毎日の中でそうした使い方ができている家は実は少ないのではないでしょうか。それならば、ダイニングにリビングの役割を備えたり、リビングに食堂としての機能を持たせたりすることで空間を効率的に活用する方が暮らしのクオリティは高くなるのでは?その代わりにヌックや書斎といった明確な機能を持たせた空間をつくることだって可能です!また、キッチンの並びにカウンターテーブルを配置すれば、その分リビングを広くとることもできます。大事なのはその家でどんな暮らしを送りたいかを考えながら間取りを決めていくことだと思います。
2階の子供部屋の在り方をもう一度考えてみる
ハウスメーカーが提案する工業化住宅では、2階の子ども部屋にも6帖ほどの広さをとることが提案されていますがそれについても疑問が残ります。将来子どもが独立して家を出れば使わなくなる可能性が高いスペースです。最近はお子さんがリビングで勉強をするご家庭も増えていますし、東大生の約半数以上はそうした環境で育ったという話も聞いたことがあります。プライベートな空間としては3帖あれば十分確保できますし、家族とのコミュニケーションが増えるというメリットもあります。2部屋ある子ども部屋の広さをそれぞれコンパクトにすることでトータルの坪数を抑えることもできます。
小さい家=「閉鎖的」な家ではない
30坪以下の狭小住宅が文字通り単に狭くて小さい家になってしまえば、不自由さを感じてしまうことでしょう。でも、どんな暮らしをしたいかに重点を置きながら、必要な部分にしっかりと広さや機能性を持たせることで、コンパクトな家でもむしろ広さや開放感を感じることだってできます。それに加えて、コンパクトな家はふだんの掃除がしやすいという物理的なメリットも!また、家の広さの印象を左右するのは室内だけではありません。外の自然環境をうまく取り込むことや家との繋がりを生む庭の存在が開放感を高めてくれるケースもあります。地価が高い首都圏での家づくりならともかく、地方での家づくりの場合、こうした要素ももっと取り入れていきたいポイントです。
35坪→29坪で月々の支払いが2万円安くなる!?
コンパクトな家でも質の高い暮らしができると考えるもうひとつの理由が経済的なメリットです。たとえば坪単価70万円の家を建てる場合、35坪から29坪に家の建坪を抑えることで、建設費が400万以上も下がることになります。これは住宅ローンの月々の支払いに換算すると、今の金利で月々12,000円程度でしょうか。また、家が小さくなるということは屋根や窓の表面積が減り、家の熱が逃げにくいので冷暖房の効率が良くなることが考えられます。結果として建坪を35坪から29坪に1/6程度抑えることで光熱費のランニングコストも単純に1/6カットすると計算すれば、その金額は月々5~6000円程度は下がるはずです。つまり、住宅ローンと光熱費を合わせれば毎月の支払いを2万円程度抑えることができ、その分の予算を生活を楽しんだり住まいの質を高める費用に使うことができます。
浮いたお金を必要な部分に回すという考え方
家の大きさをコンパクトにすることで、自分たちがお金をかけたいと思う部分に充てることも可能となります。たとえば床材を無垢の自然素材にしたり、珪藻土の塗り壁にしたりするなど素材の部分にお金をかけるのもおすすめです。また、家にかけるお金を抑えた分を土地に比重を置いてみるのもメリットが大きいです。将来的にもし売却すると考えると家は資産価値が残りませんが、土地の価値は将来もしっかり担保されているからです。売却を考えていなくても単純に土地に回せるお金が増えるというのはそれだけ選択肢が増えるということですから、それだけでも十分魅力的だと思います。
将来の社会変化を考えた時の狭小住宅の利点
文化的な理由や経済的な理由とともに、将来の社会の変化を見据えて家づくりを考える必要があると思います。それは今後避けられない人口減に伴い、街そのものがコンパクトになっていくということ。街の中心部は地価が高いからという理由だけで郊外で家を建ててしまうと、将来的には街の規模が縮小するため、生活自体が不便になってしまう危険性があります。長い目で土地の選定と家のあり方を考える分岐点の時期なのかもしれません。実は多くの街の中心部には都市公園が備わっていることが多く、このエリアに家を建てることで庭がなくてもその役割をまかなうことも見込めます。郊外で贅沢な家づくりをするよりも中心部でコンパクトに暮らすことが生活の質を上げるという考え方もこれからの時代は増えてくるように思います。
自分の暮らしに向き合った家づくりを
もちろん、全ての人にとって狭小住宅が合っているとは思いません。ずっと田舎で暮らしてきて広い家が当たり前という方には、どうしてもコンパクトな住宅に窮屈さを感じてしまうこともあるかもしれません。たくさんの人を招いてホームパーティをしたいという人ライフスタイル的には向いていないかもしれません。それでも、多くの方にとって30坪以下の狭小住宅でも十分に快適な暮らしが提案できることは事実です。現在アパートで暮らしていて家づくりを考えている方ならなおさらで、広さそのものは同程度でも間取りの工夫や自然環境を取りこむことで、十分それ以上の広さを実感できるはずです。大切なのは建坪の大きさに捉われたり箱に合わせて暮らしたりするのではなく、自分たちの暮らし方に合わせて家づくりを考えること。ひとりひとり異なる理想の家づくりの答えを見つけるため、私たちも常識に縛られることなく自由な発想で向き合っていければと考えています。